【vol.7】ライドがある日の食事・補給の考え方。糖質が最優先!

ロードバイク乗りのカロリーと三大栄養素の理論的な部分について、一応シリーズものとして書いてるんですが、前回のvol.6からかなり日にちが空いてしまいました。というのも、今回の記事はまとめづらくて書くのにものすごく時間がかかってしまったんです。悩みに悩んで書いたので、何かのお役に立てばいいなぁと思っています。

 

vol.2では「ライド抜きの消費カロリー」vol.5では「ライド時の消費カロリー」の計算方法についてお話ししました。今回はそのまとめです。ライドがあった日の総消費カロリーと、その中でどの栄養素をどれくらい摂取したらよいのかを考えます。

 

ライドがあった日の総消費カロリーは?

ライドがあった日の総消費カロリーは、シンプルに合計すればOKです。「ライド抜きの消費カロリー」「ライド時の消費カロリー」となります*1

食事記録アプリのMy fitness palにGARMIN connectを連携させると、この合計値がわかりやすく表示されるので、例として見てみましょう。My fitness palの1日ごとの食事内容を記録するページには、このような式が表示されます。

 

「目標」というのがMy fitness pal上で設定された「ライド抜きの消費カロリー」、「エクササイズ」はGARMIN connectから吸い上げた「ライド時の消費カロリー」です。この日はトータルで2814kcal消費したことがわかります。

GARMIN connectでも「カロリーイン/アウト」*2という項目で同じように表示されます。(スクショ載せたかったのにうまく同期できなかった…)

 

ライドがあった日の摂取カロリーは、消費カロリーから摂取カロリーを差し引いた「残り」の数値がマイナスにならないように意識していくことになります。減量が必要な時は、目標ペースに合わせて「残り」をプラスの値にしていくことになりますね。

これでトータルどれだけのカロリーを摂ればいいのかはわかりました。けれどもその中身は?エネルギー源になる栄養素、糖質・たんぱく質・脂質のうち、どの栄養素からどれだけ摂取すればいいのでしょう?

 

ライドがあった日の糖質・たんぱく質・脂質のバランスは?

「ライド抜きの消費カロリー」における糖質・たんぱく質・脂質のバランスついては、vol.3vol.4でお話ししました。普段からロードバイクに乗っている人の場合、まずたんぱく質の摂取量を優先して決定して、その残りから脂質と糖質を摂取していく考え方です。

糖質・たんぱく質・脂質の摂取バランスの決め方
  1. まずはたんぱく質の摂取量から決める:1.5~2.0g/体重kg/日程度
  2. 食生活を考えて脂質のエネルギー比率を決める:20~30%
  3. 1日の必要カロリーからたんぱく質・脂質のカロリーを引いて、残りのカロリーから糖質の摂取量を決める

ここに「ライド時の消費カロリー」が加わった場合は、少し視点が変わります。ライド時にエネルギー源として消費される糖質と脂質のうち、糖質の補給を最優先に考えていく必要があるのです。

 

「糖質の補給が最優先」の理由

なぜ糖質の補給が最優先なのか。その理由を知るためには、「エネルギーを作りだす時に、筋肉の中で何が起きているのか」を理解するのが一番です。難しくて敬遠されがちなエネルギー代謝のお話を、できるだけやさしくわかりやすく、心を込めて解説します。

 

エネルギー物質を作る生産ライン

まずは根本の話。私たちの体は、筋肉が収縮(縮まる)することで関節が伸びたり縮んだりして動きますよね。これは、筋肉の中でATPというエネルギー物質が反応することで起こっている現象です。このATPがたくさんあれば、筋肉はガンガン収縮しまくることができるのですが、悲しいことにATPは保存の利かない物質です。必要な時に必要なだけ作りださなければなりません

 

ATPを作り出すために、人間は細胞の中に以下のような3つの生産ラインを持っています。回りくどくてややこしいやり方なんですけどね…。人間の体って、ガソリン燃やせば車が走る、みたいにシンプルにいかないんです。これからそれぞれの生産ラインについて見ていきます。

ATPを作り出す3つの生産ライン
  1. とりあえず糖質を浅く燃やして手っ取り早くATPを作るライン(解糖系)
  2. 1でできた糖質の燃えカスをさらに燃やしてATP産生装置の燃料を作るライン(クエン酸回路)
  3. 2でできた燃料をATP産生装置にぶっこんで大量のATPを作るライン(電子伝達系)

 

ライン1:解糖系

今から体を動かすぞ!となると、まず1の生産ラインで糖質を燃やしてATPを作り出します。けれどもここでは浅くしか燃やせないので作り出せるATPにも限度があります。時間にして30秒から1分半が限界です。ライン1を回すにあたっては酸素が必要ないため、よく無酸素領域なんて言葉が使われます。

 

ライン2:クエン酸回路

ライン1で中途半端に燃やした糖質の燃えカスを原料に、ATPの燃料を作るのがライン2です。少し難しくなりますが、ライン1でできた燃えカスとは「アセチルCoA」という物質です。ライン2ではまず、この「アセチルCoA」に「オキサロ酢酸」という物質を反応させてクエン酸という物質を作りだします。クエン酸はさらに7回くらい反応を繰り返して、この途中でATPの燃料(NADH、FADHという物質。実はこれB群ビタミンのナイアシンビタミンB2がないと作れません)が作り出され、ライン3へと運ばれます。そして反応の最後には「オキサロ酢酸」が作り出されます。

あれ?「オキサロ酢酸」ってライン2の最初に突然出てきたヤツだよね?そうなんです。実は、クエン酸から回り回って「オキサロ酢酸」を作り出すラインなので、クエン酸回路」という名前がついているんです。

 

ライン1と違い、クエン酸回路が反応するには酸素が必要です。ある程度長時間の運動はクエン酸回路が不可欠=酸素が不可欠であるため、有酸素運動と呼ばれます。

さらに、ここで出てくる「アセチルCoA」は糖質を燃やす以外に、脂質を燃やすことでも作りだせる物質です。一方、「アセチルCoA」の相手である「オキサロ酢酸」は糖質がないと作りだせない物質です。脂肪は体内に大量に蓄えられるのと、エネルギー効率がいいので少量でたくさんの「アセチルCoA」を作り出せます。このため「アセチルCoA」はいくらでも作れますが、糖質が不足して「オキサロ酢酸」が作れないと、クエン酸回路はそこから先へ進めません。つまり、エネルギーを作る反応が止まってしまう。これを言い換えると、糖質がなければ脂質はエネルギー源になれない!!ということなになります。いくらお腹周りにお肉があっても、糖質が足らないとハンガーノックになってしまうのはこれが理由です。

 

ライン3:電子伝達系

ライン3では、ライン2でできたATPの燃料(NADH、FADH)をATP発生装置に放り込んで、ATPを大量生産します。実にライン1の14倍のATPを一気に作り出します。さらに、ライン2は糖質と脂質がある限りは回し続けることができるので、そこからライン3でATPが持続的に作り出され、筋肉を長時間収縮させ続けることが可能になるのです。

ライン1~3までをまとめた落書き。ノートの隅に書いてる感じ。 

小難しいお話になってしまいましたが、ここまで読んでいただいて「エネルギーを作り出すには糖質がないと始まらない」ということをご理解いただけたらとても嬉しいです。

なお、ここで出てくる糖質とは、詳しくいうと「筋グリコーゲン(筋肉中に蓄えられれているグリコーゲン)」と「血液中のグルコース(血糖)」のことを指します。ハードなライドの後は筋グリコーゲンが消費されて、すっからかんな状態になっています。そんなときは、筋肉のパワーの源である筋グリコーゲンを回復させるのが最優先。そのために、ライドのあった日はまず十分に糖質を補給することが重要です。

 

しかし正確な糖質の消費量は闇の中

ここまで糖質の重要性について解説してきました。となると、実際にどれぐらいのグラム数の糖質を補給すればよいのか、気になりませんか。

理論上、消費したカロリーのうち何%が糖質由来で、何%が脂質由来なのかわかれば、それに応じて補給すべき糖質のグラム数もわかるはずです。けれども、その割合は運動強度運動を継続した時間によって大きく変化してしまうため、正確に把握するのは非常に難しいのが現実です。(ちなみに、運動強度が上がれば上がるほど糖質の割合が高くなり、時間が長くなればなるほど、脂質の割合が高くなります。脂肪燃焼に低強度長時間の運動が有効なのはこのためです)

そんな中色々な資料を確認すると、消費したカロリーの約50~80%程度が糖質由来なのかなぁ、という印象…確かなことが言えず申し訳ないです。

 

補給すべき糖質量はこのくらい?

ただ、運動時の糖質補給に関する資料に目を通すと、全体の消費カロリーの約60%程度を糖質から摂取すれば良さそうなことが見えてきます。表1はアスリート向けの三大栄養素の摂取量、摂取比率を示していますが、糖質のエネルギー比率は60%前後です。

◆表1 アスリートのための三大栄養所の摂取量とエネルギー比率*3アスリートのための三大栄養素の摂取量・摂取比率

 

また、表2ではトレーニング量に応じて推奨される糖質摂取量を示しています。ロードバイクに特化した資料ではありませんが、私の手元にある資料で一番参考になるのがこちらかなと思います。

◆表2 トレーニング量別の推奨糖質摂取量*4トレーニング量別の糖質摂取量

例を出して考えてみましょう。体重50kgでライド抜きの消費カロリーが2300kcalのAさんがいたとします。Aさんは100kmのライドで1700kcal消費しました。今回のライドは表2の超高強度に該当すると考えられるため、12g/体重kg/日で計算してみます。

12g/体重kg/日×50kg=600g/日の糖質摂取が必要ということになります。糖質1gあたり4kcalなので、これは2400kcalに相当します。1日の総消費カロリーは4000kcalのため、ここでも糖質のエネルギー比率は60%となる計算です。

強度が高ければ糖質の消費が増えるため、その日のライドの強度が高ければ糖質の摂取量を増やしても良さそうです。トータルの摂取カロリーが大幅にオーバーしない限り、糖質の摂取が多くなることは全く問題ありません。

 

ライドがある日の食事・補給の考え方

糖質の摂取を基本に考える

ここまでの内容をまとめると、「ライドがあった日は1日の総消費カロリーの約60%を糖質から取りましょう」ということになります。もし食事記録アプリなどで糖質の摂取量やエネルギー比率がわかるのであれば、これを意識して食事や補給を組み立てていけばいいわけです。

けれども食事記録を付けていない方が大半だと思います(私もつけてません)。その場合はどのように考えればよいでしょうか。先ほど出てきた表2を参考に自分の取るべき糖質量を把握し、ライド中の補給の度に意識していくだけでも違ってくるのではと考えています。

例えば、体重60kgの方が中くらいの強度で100kmのライドをする予定があるとします。表2から、10g/体重kg/日で計算すると、1日トータルで600gの糖質が必要です。朝昼晩の食事で300g程度は賄えるので、残りの300gはライド中か後で補給する必要があることがわかります。あとは、休憩で立ち寄ったコンビニで選んだものの栄養成分表示を見て、糖質の量が十分か確認していけばOKです。

グルメライドで好きなもの食べたのであれば、それが糖質多めなのか、脂質やたんぱく質の方が多めなのか考えてみて、その後の食事で調整すればいいと思います。

例えば、パンやうどん、丼ものを食べたのであれば糖質多めですよね。この場合、帰った後の昼ごはんや晩ごはんでは、糖質多めというよりはたんぱく質を意識した方がいいと思います(バターたっぷりのデニッシュやクロワッサンばかり食べた場合は別ですが)。

けれどもライドの昼ご飯がバーベキューや焼肉だった、ほぼくりむみたいな洋菓子系のスイーツばかり食べていたとなれば、脂質の比率が高くなり糖質が不足している可能性があります。帰宅後の晩ごはんは、脂質少なめ糖質多めにすることで、調整することができます。

 

糖質の次に重要なのはたんぱく質

このように、ライドがある日は糖質の補給を最優先にすることで、筋グリコーゲンの回復力を高めることができます。これによって、翌日の疲労感が軽減されたり、次のライドでも力を出しやすくなるのではないでしょうか。

そして、糖質に加えて摂取したいのがたんぱく質です。糖質とたんぱく質を同時に摂取した場合、糖質のみの場合と比べて筋グリコーゲンの回復速度が上がったという研究結果があります。また、トレーニング後にたんぱく質を摂取することで筋たんぱく質の合成速度が上がったという報告もあります。筋グリコーゲンの回復と筋力アップの両方の面で、たんぱく質の摂取は有効です。

通常たんぱく質は、糖質や脂質のようにエネルギー源として使われることはないため、消費カロリーが多ければ多いほどたんぱく質も大量に摂らなければいけないということはありません。けれども、上に書いたように筋グリコーゲンの回復と筋力アップの側面から、帰宅後にプロテインを飲む、晩ごはんにサラダチキンを追加するといった心がけはその後のパフォーマンスに活かされてくると思います。

一方、糖質が不足している場合はたんぱく質も要注意です。通常たんぱく質はエネルギー源として使われないと書きましたが、例外があります。糖質が不足してエネルギーが作り出せない場合、筋肉のたんぱく質を削ってエネルギーを作り出そうとしてしまうのです。

このため、糖質不足でハンガーノックになった場合などは、糖質以外にもたんぱく質も意識して多く摂取する必要があります。ライド中に筋肉が削られてしまうのを防ぐためには、ライド前の朝ごはんは糖質中心できちんと食べること、ライド中も糖質も補給することが重要です。

 

以上、ライドのある日の総消費カロリーと、優先して摂取すべき栄養素(糖質、その次にたんぱく質)についてお話ししてきました。脂肪は意識しなくても普通の食事をしていれば勝手に摂れますし、よほど絞っている人以外は元々体内にたくさん貯蔵されているのでご心配なく。

ライドがある日だからといって極端に糖質の摂取量を増やす必要はありませんが、糖質が不足すると回復が遅れてしまいます。食事記録をつけるとわかるのですが、ライド時は意外と糖質が不足しがちです。(脂質は簡単に摂れるのですが…)ぜひ意識してみてください。

 

とりあえずvol.1~7でシリーズ完結です

今回で一応、ロードバイク乗りのカロリーと三大栄養素のお話は完結です。今後は、vol.1~7で語ってきたことのまとめとか、この前みたいに補給にフォーカスしたりとか、減量のこととか、ビタミン・ミネラルのこととか、トピックを絞って書いていきたいなと考えています。

今回の記事はまとまりがなく、だらだらと長くなってしまった印象…スポーツ栄養って、単純明快に語るのが難しい気がします。だから機材やパワトレに比べて、あまり話題に挙がらないんだろうなぁ。個人的な希望としては、ライドやレース中の補給が簡単にわかって、朝昼晩の食事内容も簡単に記録できて、減量時に何を食べたらいいかアドバイスしてくれる、ロードバイク専用の食事アプリがあればいいのになぁと思っています。アイデアはあるので誰か作ってくれませんかw

あああ、7000字間近まで来ている。今回も長々と呼んでいただき、本当にありがとうございました!

 

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なお、今回の記事を書くにあたって参考にした書籍はこちらです。

スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

 

 

*1:細かいことをいうと、運動後は消耗した体を回復させるためにしばらくカロリー消費が高まるようですが、それがどの程度なのか詳しいことはわかっていないそうなので割愛します。

*2:モバイルアプリからの場合、詳細>健康情報の統計>カロリーイン/アウトから確認できます。

*3:寺田新著「スポーツ栄養学」p92より作成、出典はInternational Olympic Committee.Nutrition for Athletes,2012.

*4:寺田新著「スポーツ栄養学」p92より作成、出典は日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会監修『アスリートの栄養食事ガイド』第一出版.2006.