レース・ライド中の補給戦略!糖質の吸収スピードには限界がある
パワメを導入して以来、Training Peaksでトレーニングの管理をしているのですが、たまにメールが届くんです。全文英語なのでいつも未読スルーなんですが、今日はたまたま開いてみたんですよね。そしたらめちゃくちゃ興味深いブログ記事を見つけてしまいました!紹介&解説してみたいと思います!
「最も効率的に糖質を吸収させる方法」
原文はこちら。Training Peaks公式ブログです。
題名は「How to Optimize Carbohydrate Absorption」。ぱっと見てCarbohydrate(炭水化物)の意味しかわかりませんでしたw 素人なりに和訳してみると、最も効率的に糖質を吸収させる方法といったところでしょうか。この記事を読むと、例えば補給用ジェルの原材料を見て、どの製品がスピーディに糖質を吸収できるのかをある程度判断できるようになります!ちょっと気になりませんか?
まずは糖質の基礎知識から
このブログ記事の内容を理解するにあたって必要な基礎知識から解説します。
糖質の構造をわかりやすく表現するとすると、鎖の輪っかが大量に連なっていたり、二つだけくっついていたり、一つの輪っかが単体で存在していたりするんですよね。輪っかの種類と連なり方で、糖質の種類が決まるんです。
栄養学でよく出てくる輪っかNo.1といえば、グルコース。ブドウ糖とも呼ばれていますね。次に有名なのはフルクトース、果物に多く含まれているので果糖とも言います。あとは、ガラクトースくらいでしょうか。これ、単体ではあまりなじみがないですが、ガラクトースどうしが2個くっつくとラクトース、別の名を乳糖という糖になります。牛乳がほんのり甘いのはこいつのせいです。牛乳で下すのもこいつのせいです。
今回の話の主役はグルコースとフルクトースです。グルコースはたくさん連なって鎖状になると、その連なり方によって、でんぷんやグリコーゲン、セルロース(食物繊維)になります。グルコースは私たちのエネルギー源になる糖の最小単位なんですね。
落書き。大学時代は生化学や病態生理学の講義内容をイラスト入りでノートにまとめることに凝っていた。
一方、フルクトースも重要な存在です。フルクトースとグルコースが対になってくっつくと、スクロース、別名砂糖になります。また、フルクトースとグルコースをそのまま溶かしてシロップにしたもの、これはざっくりいうとガムシロップです。フルクトースは単体だと砂糖以上に甘味が強いんですよね。冷たい水にも溶けやすいですし。なのでよく清涼飲料水の甘味付けに使われます。そして、フルクトースも、グルコースと同様に体内でエネルギー源として使われます。
糖質を吸収するためには
私たちは普段、ごはんやパンに含まれるでんぷんという糖質を摂取していますよね。けれどもこのでんぷん、そのままじゃ巨大すぎて体内に吸収できません(だってめちゃくちゃ長い鎖状だから)。なので小腸の消化酵素を使って、連なっている輪っかをバラバラに分解するんです。糖の最小単位、グルコースの状態にまで分解されて初めて、小腸の粘膜から吸収できるようになります。フルクトースとグルコースが対になった砂糖も同様です。仲良くくっついたフルクトースとグルコースが消化酵素によって切り離されます。
吸収されたグルコースはそのまま血液中に入り、筋肉や脳などのエネルギー源として利用たはれます。一方フルクトースは血液中に入った後、肝臓でグルコースに変換されてからエネルギー源となります。このためグルコースと比べ、エネルギー源になるまでに少し時間がかかるという特徴があります。
糖質の吸収スピードには限界がある!
今回のブログ記事でテーマとなっているのが、小腸がグルコースを吸収するスピードには限界があるという話です。限界とはどういうことかというと、小腸の粘膜からグルコースの取り込むのに、輸送体という船(SGLT1と呼ばれている)が必要なんですね。この船の数にはかぎりがあるので、一度に運べるグルコースの量は限られてしまう、ということなのです。今回のブログ記事には、1時間あたり60g(60g/時間)を運ぶのが限界と書かれています。つまり、一度にいくらたくさんの糖質(グルコースで構成されている)を食べても、体内に取り込めるのは1時間で60g(=240kcal相当)にしかならないのです。
1時間ペダルを回し続ければ、240kcalくらいすぐに消費してしまいます。例えば、100Wのパワーで1時間漕ぎ続けただけでも360kcalを消費する計算になります*1。
ライド中のエネルギー源としては、あらかじめ体内に貯蔵してあるグリコーゲンも使えますし、脂肪も同時に燃やしているので、すぐさま糖質を補給しないとガス欠になる!というわけではありません。けれども長時間のライドやレースでは、途中で糖質を補給しないと足りなくなってしまいます。特に、ロードレースやエンデューロなど休憩なしで漕ぎ続けるシチュエーションでは、どれだけ素早く糖質を吸収できるかは重要なポイントになってきます。
フルクトースという切り札
そこで、切り札になるのがフルクトースです。
実は、フルクトースが小腸で吸収される際、グルコースを運ぶのとは違う種類の輸送体(船)が使われます。グルコースの船が満員御礼になっていても、フルクトースの船は別にあるのでその分運べる量が増えるわけです。このため、グルコースと同時にフルクトースも摂取すると、小腸から吸収できる糖質の総量を増やすことができるのです!
では、グルコースとフルクトースの比率はどのくらいがベストで、最大どこまで吸収スピードを高めることができるのでしょう?
今回のブログ記事ではフルクトース:グルコースの比率(おそらく重量比)が、1.0~0.8:1.0が最適なのでは、と結論付けられています。また、これによって吸収できる糖質の総量は最大144g/時間まで増やせるとか。(なんか倍以上に増えてるけどほんまかいな)
先ほどフルクトースはエネルギー源として利用されるまでに時間がかかる、とお話しましたが、グルコースと一緒に摂取することでその弱点はカバーされるようです。
フルクトース:グルコース比率が最適になる補給食とは!?
さらに、補給食(おそらくジェル)の原材料表示から、比率が最適になると思われる組み合わせが紹介されています!とりあえず、和訳をそのまま抜粋。
ちょっとこれだけだとイメージが湧きませんよね。ちなみにマルトデキストリンとは、グルコースがある程度の長さの鎖(でんぷんほど長くないので消化が楽)になったものです。要するにグルコースの塊です。
マルトデキストリンだけだとグルコース船が満員になってしまう。けれども2のように果糖(=フルクトース)が加わればその分吸収できる糖質の量が増える。また、ショ糖(=砂糖)はフルクトースとグルコースが対になったものでしたね。2にショ糖(=砂糖)を加えた1のパターンも比率的に良さそう、と考えられるわけです。
実際の補給食で検証!
ここからは、私たちが実際に使う補給食ではどうなのか、ということを考えていきたいと思います。ポイントは、原材料に書かれている成分に、グルコースだけでなくフルクトースが含まれているものも使われているか?です。では早速見ていきます!
ウイダーinゼリー エネルギー
inゼリー エネルギー マスカット味 (180g×6個) すばやいエネルギー補給 10秒チャージ ビタミンC配合 エネルギー180kcal
- 出版社/メーカー: 森永製菓
- メディア: ヘルスケア&ケア用品
- この商品を含むブログを見る
どこのコンビニでも手に入る、メジャーすぎる補給食、ウイダーinゼリー エネルギー。原材料名にはこのように記載されています。
液状デキストリン、果糖ぶどう糖液糖、マスカット果汁/乳酸Ca、クエン酸、ゲル化剤(増粘多糖類)、V.C、クエン酸Na、香料、塩化K、乳化剤、パントテン酸Ca、ナイアシン、V.E、V.B1、V.B2、V.B6、V.A、葉酸、V.D、V.B12
果糖ぶどう糖液糖とは、ざっくりいうとガムシロップです。果糖が50~90%含まれいます。フルクトースもある程度含まれているのでスピーディに糖質補給できそうな構成だと思われます。ちなみに、これ1パックに45gの糖質が含まれています。
ザバス ピットイン エナジージェル ピーチ風味
ドラッグストアでも買える割と手軽な補給ジェルです。小ぶりなのとキャップがついているのが便利で、個人的にはマラソンをしていた時よくお世話になっていました。
マルトデキストリン、食塩/クエン酸、クエン酸Na、V.C、クエン酸K、甘味料(アセスルファムK、スクラロース)、ナイアシン、香料、クチナシ色素、V.B1、V.B6
糖質として使用されているのはマルトデキストリンのみのため、フルクトースは含まれていません。マルトデキストリン自体は速やかにエネルギー源となる糖質ですが、フルクトースを同時に取る場合と比べると、吸収スピードは劣るかもしれません。
PowerBar パワージェル グリーンアップル
こちらもたまにレース会場で売られているのを見かけます。ロードバイク乗りの間では結構ポピュラーな気がします。グリーンアップルフレーバーの原材料です。
こちらはわかりやすいですね。グルコースとフルクトース、どちらも含まれています。これ1個あたりの糖質は30g。極端な話、20分おきに1個ぐらいのペースで食べても滞ることなく吸収できるのかもしれません。
ちなみに、食品の原材料表示は使用している重量の大きい順に記載されます。紹介した3製品全てでデキストリンがトップに来ているので、グルコースの比率の方が高いことがわかります。ですが、比率まではわかりません。原材料表示のみで得られる情報の限界ですね。
糖質の吸収スピードをさらに上げたいときは
どこまで需要があるかわかりませんが、糖質の吸収スピードをもっと上げたい!という場合。フルクトースを利用する以外にも2つの戦略があります。
小腸に運ばれるまでのスピードを上げる
口から食べたものはまず胃に運ばれ、(食べたのがジェルや液体状のものであっても)ある一定の時間は胃に留められます。食べたものが胃に入ってから、その先の小腸に押し流されるスピードのことを胃排出速度といいますが、この速度が上がれば吸収までの時間を短縮することができます。
液状の物を摂取した時の胃排出速度は1分間に約10mlです。けれどもあまりに糖質の濃度が高いと、このスピードが落ちてしまいます。
補給用ジェルを食べたはいいものの、お腹に残る感じがする、気持ち悪くなる、という話を聞いたことがあります。一概に言えませんが、ジェルだと濃度が高すぎるため胃排出速度が落ちてスムーズに吸収されていないことも考えられます。
本当はボトルに溶かして濃度を下げておくのがよい*2のですが、それだと持てる量に限界がありますし、扱いづらくなるかもしれません。ですので、ジェルを食べたら十分量の水分も補給するといった心がけで十分ではないかなと思います。
糖質の吸収に体を慣らしておく
普段から糖質の吸収に体を慣らしておくことも、糖質の吸収スピードを上げる戦略の一つです。糖質エネルギー比率が高い食事を続けることで、小腸のグルコース輸送体を増やすことができるうえ、先ほど出てきた胃排出速度も上昇するようです。もし、ロードレースなど長時間高強度のレースを走る予定があるのであれば、事前の食生活で体を慣らしておくのもいいかもしれません。
吸収が速けりゃいいってもんじゃないけれど
ここまでは、とにかく短時間でいかに大量の糖質を吸収できるか、という視点でお話ししてきました。その最適解をまとめると以下の通りです。
- ある程度糖質に体が慣れた状態であること
- グルコースとフルクトースの両方を含む補給食を摂取すること
- 糖質濃度が高くなりすぎないように同時に水分も摂取すること
ただし、これは高強度長時間のライドやレース中を想定した時の戦略です。このようなシチュエーションでは短時間に大量の糖質を吸収する必要が出てきます。一方、そうでないときに、ガンガン糖質を吸収してしまうとどうなるでしょうか?まず、吸収された糖質は血中に取り込まれ、血糖値が上がります。しかし使うあてがないと、脂肪合成の材料に回されてしまいます。悲しい。
レースが始まる前や、低強度のライド中はそんなに糖質を消費しないので、急いで吸収する必要はありません。むしろ吸収スピードがゆっくりな糖質を摂取することで、その後のライドに備えることができます。
その時の状況に合わせて補給を考えていくことで、ライドやレースがよりうまくいくようになればいいなと思います。
以上、「糖質の吸収」という視点で補給について考えてみました!今回も長いことお付き合いいただきありがとうございました!
(今回は途中で編集内容が一部消えてしまってちょっとショックでした。なんか雑な仕上がりになってるかもです。)
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なお、今回の記事を書くにあたって参考にした書籍はこちらです。